2011年05月05日
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セラ姫物語 ~プロローグ~ 20110505版

Written By: 遠野秋彦連絡先

 ラト姫物語の続編としてのセラ姫物語の構想は昔からあったが、最近になって突然書く意欲が沸き、実は第1稿を既に脱稿しており、第2稿として大幅な書き足しを行っているところである。ここはアリバイ証明としてプロローグだけを掲載しよう。続きがこのままネットで連載される予定は無いことをあらかじめ断っておく。ちなみに、公開されていないラト姫物語第4版の続編となる。

プロローグ『味方』 §

 ナサ級宇宙戦艦アリナサのブリッジは騒然としていた。

 「メガ将軍、リノ33が欠けた穴を魔道艦ジャハンが補うってどういうことですか」

 悲鳴のような抗議の声に眼光の鋭い男が答えた。

 「ナサ級は最低でも2隻の護衛艦を持たねば全力を発揮できない。リノ121だけでは戦力不足だ。リノ33が欠けた穴を埋めてくれるなら歓迎だ。そうだろう?」

 「しかし、相手は魔道艦ですよ。昨日までの敵ですよ。しかも、実際に昨日はリノ33を砲撃していた一隻ですよ」

 「だが背に腹は変えられない」メガ将軍はニヤリと笑った。「それに、彼らも我々も願いは1つだ」

 「やはりここはラルクとラト姫の指揮するキダシ主力を呼び戻して……」

 「何度やっても連絡はつかないし、そんな時間は残されていない。それは分かっていたことだろう?」メガは言い切った。

 「た、大変です」とレーダー主が叫んだ。「敵巡洋艦3隻、接近します」

 「どういうことでしょう。ナサ級の火力なら敵の巡洋艦ぐらい圧倒します」と副官が首を捻った。

 「敵も上へ下への大混乱の最中だ。思い通りの戦力をぶつけられるわけではなかろう。それにこの場は、1秒でも足止めされればそれが敵の利になる。巡洋艦3隻ぐらいはそのためなら安いものだろう」

 「足止めされると痛いですな」

 「砲術長」とメガ将軍は呼びかけた。「足止めされたくない。どうだ。1斉射であの3隻を仕留められるか?」

 「難しいですな。しかし、やるしかないでしょう」

 「待って下さい。発光信号です」

 接近する魔道艦の先頭の艦が信号を送ってきた。

 『めがショウグンノ カンタイニ サンカシタシ。ワレラ ドウシナリ』

 「どういうことでしょうか」

 「魔道艦ジャハンは特殊な例外ではなかった、ということさ」メガは軽やかに笑った。

 「し、しかし……」

 「相手には発光信号なら通じそうだな。通信士、すぐ返信だ。『我が艦隊に歓迎す。旗艦に単従陣で後続されたし』以上だ」

 巡洋艦群が進路を変更し、アリナサの後ろに続く。

 そこにあり得なかった奇妙な光景があった。

 昨日まで敵対していたはずの人類の宇宙艦と、魔道士種族の宇宙艦が艦隊を組みつつばく進しているのだ。

 「本当に魔道艦が追従してきます。こんなことが本当に起こるとは」

 レーダー主が叫んだ。「敵です。形式不明。魔道艦ではありません。数およそ10。敵意の有無は不明」

 その謎の艦隊は、アリナサの射程外から撃ってきた。電撃に近いエネルギー流らしいが、アリナサには詳細は情報が無かった。

 「情報は無いが、相手が敵ならやるしかなかろう。敵の方が数が多いから本気でやらないと勝ち目は無いぞ」

 しかし、次の瞬間その艦隊は次々と爆発炎上していった。

 「何があったのだ?」

 「分かりません」

 「魔道艦ジャハンからの連絡です。彼ラハ味方ナリ。撃ツナ」

 「なんだって?」メガは再度探知システムをチェックした。

 爆発炎上する艦隊の背後から、数十隻の艦隊が姿を現していた。魔道艦とは別のタイプだった。別種族が建造して運用している宇宙艦だろう。

 「魔道士以外にも味方になってくれる種族がいたのか!」メガが声を上げた。

 「更に参加を希望する魔道艦から連絡が来ました。戦艦ガビールと名乗っています。補助艦艇5隻を引き連れているといっています。どうしますか?」

 「こっちも別の種族の艦隊から連絡です。メガ将軍の指揮下に入ると」

 「何が起きているんだ」メガは身を乗り出して戦術パネルを見た。

 「この状況に腹を括った種族も多いってことでしょう。誰を親分として担ぐかですね」副官が言った。少し涙ぐんでいる。

 「だが、こっちはアリナサの他には無人駆逐艦1隻きりだぞ」

 「グ・モンテムを陥落させたメガ将軍が信用されているのですよ。たぶん」

 「そうらしいな。しかし、この状況でまともな隊列など組んでいる暇は無いぞ」

 「ではどう指示しますか?」

 「まあ敵はでかい。超巨大だ。各艦が互いに邪魔にならないように射界を確保できれば十分だろう。全艦に指示。『安全間隔をとりつつ各艦アリナサに続け』だ」

 「了解。伝達します」

 「誰もが夢想もしなかった事態が起きつつある」メガはつぶやいた。「いや、そうじゃないな。ラト姫は想定していたのだろう。こういう状況を」

 メガは自分で自分にうなずいた。

 「ならば連絡するまでも無い。ラト艦隊は可能な限り素早くここに引き返してくるはずだ。たとえお腹に子供がいても、ラト姫はスピードはゆるめまい」

 ラトの乗った巡洋艦オスルムは、メガが望んだ通り彼女に可能な最も素早い行動により地球に帰還した。その点で、メガの想定は間違っていなかった。ラトはメガが望んだ通りに行動した。

 問題は、それに要した時間が地球時間で約1万2千年であったことだ。

遠野秋彦